地学準備室。
Lはふと壁に貼られた1枚の奇妙な手紙に気付いたのだった。
L「怪盗イッチからの挑戦状! 暗号文のようです!」
するとLはO木の方へ目を輝かせた。
O木は咳払いをして、「誰かの悪戯だろう」とでも言いたげに視線を俯ける。
L「この暗号文……私、気になります!!」
事態が大きくなることを忌避するO木。
好奇心に駆られるL。
この一進一退の攻防へ決着をつけるように、ST志が軽口を叩いた。
ST志「何て書いてあるの?」
L「規則に従ってここへ来い 3 35 18 39」
するとST志も意地悪げな笑みを浮かべてO木の方へ目を向けた。
午後4時。盛夏の日差しはまだ高く、グラウンド脇の垣根が白く光っている。
Lは暫し暗号文と睨めっこをした後、O木に向かってこう口にした。
L「一体どこへ行けばいいのか? 私、気になります!!」
【第1問】
怪盗イッチの暗号文によると、Lたちはどこへ向かえばよいか? 理由も合わせて答えよ
規則に従ってここへ来い 3 35 18 39
ちゃんとしてます
規則に従うということが大事
違います
なんか数列とかになっとるんかなそうは見えんけど
原子番号
正解です!
O木はゆっくり立ち上がった。
ST志「その顔は何か思いついたね」
O木は一度首を縦に振り、本棚から化学の教科書を取り出した。
そして「もう分かるだろう」というようなことを言って再びパイプ椅子へ腰を落ち着けた。
ST志「そうか! 規則は元素の周期表のことか!」
好奇心の醒めぬLが瞳孔を開いたまま最初のページをめくる。
L「3番はリチウムのLi、35番は臭素のBr、18番はアルゴンのAr、39番はイットリウムのYです!」
Lの声に合わせてメモ帳へアルファベットを書き殴るST志。
ST志「これは……」
L「LiBrArY! 図書室ですね!!」
図書室へ赴く3人。
受付には図書当番のMが座っていた。
M「どうしたの? みんな揃って」
L「実は怪盗イッチという名乗る人物が地学準備室に暗号文を貼っていたんです。暗号を読み解いて図書室までやって来ました」
ST志「そういうこと。誰か怪しい人とかいなかった?」
するとMはすかさず二つ折りの便箋を差し出した。
M「1時間前に来たよ。変わった風貌の男の人。自分のことを尋ねてきた人物に渡してくれって頼まれたけど、まさかみんなのことだったなんて」
O木の言ったように、どうやら怪盗イッチは相当な悪戯好きらしい。それも頗る用意周到の、である。
さっそくST志が便箋を開く。
ST志「何々……〇△の△□だと子供がはしゃぐ。〇の〇だと皆が太陽を見つめる。では△の〇□だと、父は何を享受するか? だって」
するとLは真っ先にO木に迫った。
午後4時半。ST志とMはこの様子を実に面白がっている。
L「一体これは何のことなのか? 私、気になります!!」
【第2問】
怪盗イッチの暗号文によると、父は何を享受するのか答えよ
〇△の△□だと、子供がはしゃぐ
〇の〇だと、みんなが太陽を見る
では△の〇□だと、父は何を享受するか?
正解です!
O木は一度大きく息を吐いた。
ST志「さては何か思いついたんだね」
O木は一度首を縦に振り、ST志へメモ帳と鉛筆を出すように言った。
L「それは本当ですか!?」
O木「ああ。これは簡単な数字のパズル」
新聞の吊るされたラックの隣でO木は長椅子に腰かけた。
メモ帳に走り書きされる記号。
L「〇が1、△が2、□が4……数列ですか?」
黒鉛の擦れた文字を見るなりLはそう考えた。
考えたが、O木の考えを理解したらしいST志が口を挟む。
ST志「なるほど。バレンタインか」
M「バレンタイン」
ST志の言葉を聞いて漸くLも合点がいった。
〇△の△□は12月の24日でクリスマス、〇の〇は1月1日で初日の出、△の〇□はバレンタインである。
L「なら、父が受け取るものといえば、チョコレートですね!!」
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M「確かお菓子の本はこの辺にあるよ。私もたまに読むから」
ST志「そうか! Mはお菓子作りが上手だった」
橙色の絨毯を進む4人。
チョコレートに関する本は食べ物を取扱う一角の端で埃を被っていた。
基本のチョコレートレシピという色の褪せた一冊。早速Lが中をめくる。
すると、またしても二つ折りの便箋が挟まれていた。
L「間違いありません。怪盗イッチです!」
好奇心で目を丸くするL。
L「暗号を読みます。YとRが結婚してOを生んだ。YはBとの間にGを生んだ。今度はRとBがPを生んだ。君たちは次にどこへ向かうべきか? ……暗号はこれだけです」
ST志「この暗号の答えが次の場所と結びつくってことなのかな」
【第3問】
怪盗イッチの暗号文を解き、次に向かうべき場所はどこか答えよ
YとRが結婚してOを生んだ。YはBとの間にGを生んだ。今度はRとBがPを生んだ。
正解です!
そうです
M「結婚と浮気の話?」
L「なら、このアルファベットは血液型でしょうか? それにしては種類が多すぎるような……」
MとLの会話を横目にO木は大きな欠伸をした。
M「ちょっと、真面目に考えてよ」
ST志「いや、これでも真面目だと思うよ。M達よりずっと」
L「どういうことでしょう!?」
ST志「考えてみてよ、アルファベットが人間を表すなら、RとBは性別が一緒になるよ」
LとMは再度暗号文に目を通した。
通した後で、2人は目を合わせてやや恥ずかしげに耳を赤くした。
O木「これは色の話」
ST志「なるほど。アルファベットはそのまま色の頭文字か」
彼らの分析にLは感服した。
イエローとレッドでオレンジ。イエローとブルーでグリーン。レッドとブルーでパープルである。
L「なら、恐らく次に行くべきは美術室ですね!」
図書当番の仕事のあるMを残し、3人は美術室へ向かった。
ST志「今日って何日だっけ?」
L「8月20日です」
ST志「まいったなあ。絵の宿題を31日までに出さなきゃいけないのに。美術室は気が進まない」
そんなことを口にするST志。
しかし好奇心の一向に落ち着かぬLは部屋の引き戸を勢いよく開けた。
L「これは……!!」
美術室の光景は普段とまるで異なった。
多くの机が窓側へ移動し、照明は半分だけ点いている。西日と蛍光灯の混ざった光を受ける窓側に比して、通路側は際立って暗い。
3人は室内へ入った。
暗い通路側には机が5つだけ残され、その他の机は全て窓側へ乱雑に放られている。部屋の真ん中にたったひとつ椅子が置かれている。
O木「教卓」
ふとO木がそうとだけ呟いた。
教卓の上には見慣れた質感の便箋が置かれていた。
L「やはり怪盗イッチですね!! 次の暗号文は……『Yを見よ ほんさていみやけ』?」
ST志「ほんさていみやけ? 落語家かな」
軽口を叩くST志。
一方のLは困惑した。これだけでは何のことか皆目見当がつかない。
ST志「時計が止まってる……」
天井を見て思索にふけっていたST志がふとそう口にした。
ST志「おかしいな。昼は動いてたのに」
L「確かに変です。昼に動いていたのなら、9時30分で時計が止まるはずはありません……ひょっとしてこれも怪盗イッチの!?」
動かされた机と椅子。奇妙な文字の並ぶ暗号。そして止まった振り子時計。
Lは怪盗イッチの思惑の燻る教室を再度見渡した。
L「この美術室がの暗号は何を示すのか……私、気になります!!」
【第4問】
怪盗イッチの暗号を解き、次に向かうべき場所はどこか答えよ
ST志「これはどうも難しいね」
L「私も、何のことかさっぱり」
2人が白旗を上げかけているのを見て、O木がそっと一歩を踏み出した。
そして教室の真ん中に置かれた椅子へ腰かけた。
ST志「どうしたの?」
ST志の問いかけにO木は応じなかった。
その特有の髪の毛に触れて、考える仕草をしている。
O木(「さっきの問題にもYがあった……それに光の当たらぬ場所、あの時刻……夜?」)
【第4問】
怪盗イッチの暗号を解き、次に向かうべき場所はどこか答えよ
・教室は通路側のみ照明が消され、通路側には机が5つだけ置かれている。教室の真ん中に椅子がひとつ
・時計は9時30分で止まっている。
・暗号文は『Yを見よ ほんさていみやけ』
一度天を仰いだ後、O木は立ち上がった。
ST志「何か思いついたんだね」
O木は「ああ」とだけ言った。
O木「この教室が示しているのは昼と夜」
するとLがO木の座っていた椅子へ、半ば強引に座った。
L「通路側が夜ということですか!?」
ST志「夜ならあの時計が指しているのは21時30分ってことだね」
O木「ああ。後は暗号文が何を言いたいか分かるか?」
LとST志は少し俯いた。
寸刻の後、ST志が閃きを伴った声をあげた。
ST志「分かったよ。星だ!」
L「星?」
ST志「うん。今日、8月20日の21時30分、何の星が見えるのかってことさ。Yを見よってのは、恐らくさっきの問題のY、つまりイエローのことさ。星にイエローと来れば黄道12星座だ」
O木がゆっくり首を縦に振る。
L「なら、この椅子が地球の位置なのですね!」
ST志「今日の21時30分に見えるのはてんびん座、さそり座、いて座、やぎ座、みずがめ座の5つだ」
L「頭文字をとると『てさいやみ』……先ほどの『ほんさていみやけ』からこれらを差し引くと……『ほんけ』が残ります!」
ST志「並べ替えるとほけん、つまり保健室か!」
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わかるかよこれ
保健室に向かう道すがら、LはO木の閃きに改めて感嘆していた。
やはり彼の観察力と洞察力は常人を遥かに凌ぐものである、と。そう思った。
3人は階段を下り、廊下を渡って保健室の扉を開いた。
室内は暗く、いかにも胡散臭く真ん中へ置かれたテーブルには、例によって便箋が置かれていた。
ST志「読むよ」
L「はい」
ST志「『日が傾くにつれ勢いは斜陽となったが、僕はこの日Heroになった。仲間外れの数字を当ててみろ』……だってさ」
便箋の下には正方形の描かれた紙面とトランプのカードが何枚か広げられている。
トランプはエースから10の十枚が揃っていて、スートはいずれもダイヤである。
ST志「これは参ったな。算数的な問題は苦手なんだ」
ST志は両手を頭の後ろで組み、そう口にした。
彼の半ば諦めたような面持ちを察して、LはO木に詰め寄る。
L「気になるんです!」
O木「そ、そうか」
L「これが何を意味するのか、私気になります!!」
【第5問】
怪盗イッチの暗号によると、仲間外れのカードはどれか?
理由とともに答えよ
文面と正方形は別紙です
文面の図形とかは気にされなくてよろし
O木は一度窓越しをじっと見つめた。
時刻は6時が近づいている。暗号文のような斜陽がグラウンドに落ちていた。
O木「斜陽となったがHeroになった……」
L「何か分かったんですか?」
O木「いや」
Lの声を上手く躱すO木。
O木「(しかしなぜダイヤ……?)」
【第5問】
怪盗イッチの暗号によると、仲間外れのカードはどれか。
理由とともに答えよ
・暗号文は『日が傾くにつれ勢いは斜陽となったが、僕はこの日Heroになった。仲間外れの数字を当ててみろ』
・正方形の描かれた紙
・Aから10のトランプ(スートは全てダイヤ)
割といいとこついてる
https://i.imgur.com/iYN3Mkg.png
えるたそを貼ることしかできなくなった
ごめん、そこは全然関係ない
アルファベットとかは全く関係ない
グラウンドから球技に熱を入れる男たちの声が響いてくる。
目を瞑るO木の表情が窓に映るのを、Lは眺めていた。
ST志「何か分かったの?」
O木「まあな」
その言葉に、Lは思わずテーブルを叩いて「何なのですか!?」と詰問する。
O木「これは算数なんかじゃない」
O木は窓の外を指さした。その先には白球を追いかける生徒たちの姿がある。
ST志「野球? そうか、スートのダイヤは野球の暗喩で、この正方形も野球のダイヤモンドか!」
ゆっくり頷くO木。
L「……でも、野球は普通9人でプレイします。延長戦がなければ9回で試合終了ですし、10まで用意されたトランプとは結びつかない」
このLの疑問にはST志も同調した。「確かに分からないね」
するとO木はグラウンドに向けていた人差し指を翻らせ、今度は暗号文の方を示した。
日が傾くにつれ勢いは斜陽となったが、僕はこの日Heroになった。の部分である。
O木「例えば最初にホームランを打ったとすれば」
正解です
ST志「……そうか、サイクルヒットか! 最初の勢いが衰えても、サイクルヒットになれば記録に残る、つまりその日はヒーローだ」
L「サイクルヒット?」
ST志「シングルヒット、ツーベース、スリーベース、ホームランを1試合に1本以上打つことだよ」
L「なるほど。では10までの数字が意味するものとは?」
ST志「たぶん進塁の数だよ。サイクルヒットを合計すると10回進塁することになるからさ」
LとST志は正方形を傾けた。
同時にトランプのカードを手にした。
ST志「日が傾くにつれ勢いは斜陽となったってことは、ホームラン、スリーベース、ツーベース、シングルヒットの順に打ったってことだね」
ST志が4つの頂点にカードを配っていく。
その様子をLはまじまじと見つめていた。
ST志「仲間外れは唯一ホームベースまで帰還している4だね」
暗号の謎は解けた。後は次にどう行動すればよいのかである。
O木「これを見てくれ」
ふとO木がベッドの傍らに設置された体重計を見るように促した。
体重計はちょうど4kgのところで止まっている。
台座には古本の詰められた段ボールと、その上に音楽の教科書が載っている。
L「次は音楽室ですね!!」
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日は少しずつ短くなり、日没の風はやや冷えた空気を伴っているようだった。
L「怪盗イッチの目的は一体何なのでしょう?」
3人は階段を上がり、校舎の隅の音楽室の扉を開けた。
部屋をひと通り眺めた時、Lが思わず叫び声を上げた。
L「あれは……!!」
部屋の真ん中で誰かが倒れている。
しかも血を流しているようだった。
すぐに倒れている男の方へ向かう3人。
ST志「この人、怪盗イッチだ。右手に暗号文を持ってる」
L「そんな……」
ST志「遅かった、もう死んでるよ」
L「きゃああああああああああ!!」
O木「おいST志」
震えて動けないL。
その様子を察して彼女を椅子に落ち着かせた後、O木は地面を指して告げた。
ST志「これは……ダイイングメッセージ!?」
怪盗イッチは最後の力を振り絞り、血で犯人の正体を残したようだ。
床に血の文字が浮かんでいる。
ST志「……さすが誇り高き怪盗。ダイイングメッセージまで暗号で綴るなんて」
O木「ああ」
ST志は苦笑に近い面持ちでその言葉を口にした。
ST志「けいほうおん、さがす」
【第6問】
怪盗イッチの残したダイイングメッセージから推理し、犯人は誰か答えよ
けいほうおん、さがす
正解です!
O木「遺体の胸を見てみろ」
ST志「足型に大きく陥没してるね。そしてこの突き破られた天井と粉砕された床、何より怪盗イッチの焦げた様子」
O木とST志は異様な風景の音楽室を再度見まわした。
ST志「強く蹴り上げられた後に落下し、思いっきり踏みつけられ、最後にブレイズキックを受けて焼却されたってところだろうね」
O木「こんなことができるのは……」
ST志「間違いない。スイレンが蹴り殺したんだ」
L「ひどいです! ひどすぎます!!」
O木「しかし、イッチからすれば本望だったじゃろう」
サトシ「でも何だかんだ今日は楽しかったよ。なあリーリエ」
リーリエ「色々ありましたけど、手に汗握る一日でした!」
オーキド「うむ。たまにはこうして頭を働かせるのも大事じゃな」
マオ「みんなー!!」
リーリエ「マオ! こんな時間まで図書当番の仕事を?」
マオ「そうなんだよ。延滞のチェックしてたら長引いちゃって……暗号の方は?」
リーリエ「怪盗イッチはスイレンに蹴り殺されていました。事件は無事解決です!」
オーキド「そういえばリーリエよ。自由研究は順調か? ロコンの氷技でアイスクリームを作ると言っておったじゃろう」
リーリエ「はい! 明日には最高の氷菓、いやアイスクリームが完成します! どうでしょう? 今から皆さんで試食がてら食べに来ませんか?」
サトシ「さんせーい!! 俺お腹空いた!!」
完
>>123
正直この流れは脱帽ですわ
ここはスイレンスレだったのだ
えるたそと見せかけてリーリエ
まやかと見せかけてマオ
さとしと見せかけてサトシ
か
引用元: http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1581859625/